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公益社団法人 安房医師会

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巻頭言 Vol.61 No.6 2025

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 理事 角田泰彦

近年、医療の世界にもAIやICTといった先端技術が急速に浸透してきました。電子カルテの普及、遠隔診療の推進、診断支援システムの導入など、医療のあり方そのものを変える波が押し寄せています。大規模病院ではすでに当たり前のようにデジタル化が進んでいますが、一方で現実には大きな壁も存在します。

私どもの病院は未だに紙カルテを使用しており、数年前に電子カルテの導入を検討しました。しかし、維持費だけで月額30万円ほどかかる見積もりが出され、経営的に導入を断念せざるを得ませんでした。医療の効率化や情報共有の観点からは電子カルテの意義は明らかですが、中小規模の医療機関にとっては費用負担が依然として重く、技術の恩恵を受けにくいという現実があります。

さらに、医療DXが進展しても地域の医療課題がすべて解決されるわけではありません。田中かつら先生がアンケート調査を実施されたように、様々な事情から医療過疎となっている地域は今も全国に数多く存在します。その中で、往診や訪問診療を続けて地域を支えている先生方がおられる一方で、今後は特区の制度が導入されれば、多地域からの医療参入によって既存の開業医の実入りが減少する懸念も指摘されています。医療提供体制の多様化は一見前向きなようでいて、地域医療を守る現場にとっては新たな課題を生みかねません。

こうした現状を踏まえると、デジタル化は医療の未来を切り拓く大きな力でありながら、その導入や活用には経済的・社会的な格差がつきまといます。そして、だからこそ私たちは「医の原点」を見つめ直す必要があります。病を診るだけでなく、人を診る。診療の効率化や制度の変化に振り回されても、患者と向き合う心だけは決して失ってはなりません。

AIやICTは、適切に使えば医師の負担を軽減し、診断の精度を高める大きな味方となります。この点は多くの方が少なからず体験・実感されているでしょう。しかし、患者の不安に寄り添い、信頼を紡ぐ営みは人間にしかできない領域です。技術と人間性を対立させるのではなく、互いに補い合うものとして受け止めることが、これからの医療には求められています。

時代は大きく変わっても、医療の根幹は変わりません。進歩する技術をどう活かすか、そして何を守り続けるのか。その問いに応えながら、地域と患者を支える医療をこれからも築いていこうと思います。

 


巻頭言 Vol.61 No.5 2025

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 理事 相 正人

最近の医療問題に関しGoogle開発の人工知能のGeminiに質問してみました(2024年から含む)。 1. 医療の2024年問題と働き方改革 ・医師の労働時間上限規制: 2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が導入されました。これにより、医師の過剰労働を是正し、健康確保と質の高い医療提供を目指すことが大きな課題となっています。  ・人材不足への対応:少子高齢化による労働人口の減少や、育児・介護によるキャリア の中断などにより、医師や看護師などの医療従事者の人手不足が深刻化しています。 ICTツールの導入による業務効率化や、働きやすい環境整備が求められています。 2. 2025年問題と地域包括ケアシステム   ・超高齢化社会への対応: 2025年には団塊の世代が後期高齢者(75際以上)に達し、国民の約3人に1人が65歳以上になると推計されてれています。これに伴い、医療費の増加や医療従事者の不足がさらに深刻化することが懸念されています。 ・地域完結型医療・介護提供体制の構築: 住み慣れた地域で、医療・介護・予防・生 活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が喫緊の課題となっています。特に、在宅医療の重要性が高まっています。   ・外来・在宅医療・介護の連携: 高齢者救急の増加や在宅医療需要の増加に対応するため、外来、在宅、介護の連携強化が重要視されています。 3. テクノロジーの活用と医療DX ・AI(人口知能)の医療への導入: 生成AIの活用による業務効率化(MR業務、 データ分析など)や、医師の業務時間削減などが期待されています。 ・オンライン診療・電子カルテの普及: IT導入による業務効率化は、医療現場の働き方改革を後押しする重要な要素となっています。 ・ゲノム医療、再生・細胞医療・遺伝子治療: 最先端の医療技術への期待も高く、今後の発展が注目されています。 4. 患者中心の医療と健康への権利 ・ 世界保健デーのテーマ: 2024年の世界保健デーのテーマは「私の健康、私の権利」であり、健康が全ての人間の基本的人権であることが強調されています。2025年は「健康なはじまり、希望に満ちた未来」で、母子の健康、女性及びその家族のウェルビーイングがテーマです。 ・ 予防医療・健康寿命の延伸: 病気の治療だけでなく、予防や健康寿命の延伸に対する意識が高まっています。 ・ ウェルビーイング: 一人ひとりの心身ともに満たされた状態(ウェルビーイング)の実現に向けた取り組みも進められています。 これらのテーマは相互に関連しており、日本の医療が抱える課題を解決し、持続可能な医療提供体制を構築するために、多角的な視点からの取り組みが求められています。 以上がGeminiの回答でした。 安房医師会ニュースの2024年、2025年の巻頭言を振り返ってみると、「安房地域の安全保障や生活基盤の安定など地域社会の健全なる発展」、「利他的行動による人類の発展」、「少子高齢化に伴う2025年問題や2040年問題」、「診療報酬のマイナス改定と日本医師会の役割」、「コロナワクチンに関する諸問題」、「AIと医療」などでした。 法律や制度に合致しているかどうかを調べるにはAIは有用かもしれませんが、枠を超えた発想や思考をAIはできるのでしょうか?そして最終判断は人間で行うべきだと思いますが、いずれAIもそこを超えてくる日が来るかもしれません。


巻頭言 Vol.61 No.4 2025

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 理事 亀田俊明 

安房医師会への思い                         

梅雨空が続き、蒸し暑さが身にこたえる季節となりましたが、会員の皆様にはお変わりなくご健勝のこととお慶び申し上げます。早いもので、本年も折り返し地点を迎え、時の流れの早さに驚くばかりです。 さて、医療界を取り巻く環境は依然として厳しい状況が続いております。働き方改革にはじまり、物価高騰、人手不足といずれも医療現場の運営に直撃しています。2024年度は、全国の病院の約6割が赤字との報道もありましたが、実際には自治体からの繰り入れ等によってかろうじて維持している病院も多く、表面化していない経営困難を抱える医療機関は少なくありません。2025年度は診療報酬の改定も予定されていないことから、大きな改善は見込みめそうにありません。 このような中、安房地域においては少子高齢化が深刻さを増しており、今後あらゆる産業で人手不足が進むことが予想されます。医療分野も例外ではなく、将来を見据え、地域で医療に従事することの意義や魅力を若い世代に伝えていくことは、私たち医師会の大切な役割であると考えています。 一方で、当医師会においては、理事会や役員人事を巡り、選考に至るまで長時間を要する事態がありました。様々なご意見があることは重々承知しておりますが、私たち医師会員の使命は、役職の名誉を競うことではなく、地域の医療をより良くするために力を尽くすことにあるはずです。 個人的なことを申せば、私自身にとってはほぼボランティアといえる医師会の理事職を続けているのは、病院と診療所の橋渡し役を担うことが、地域医療にとって確かな意義があると信じているからにほかなりません。 医師会としての制度設備やルール作りも重要ではありますが、それに過度な時間を費やすよりも、変化する時代にどう対応し、安房地域に安定した医療を提供し続けるか、その本質的な議論にこそ、力を注いでいくべきかと考えております。 現在の理事会体制は、まだ手探りの部分も多く、従来のやり方に慣れた先生方にはご不便をおかけしているかもしれません。それでも新たな視点や、柔軟な発想が少しずつ芽生えつつあり、会としての可能性を広げる契機ともなっていると感じております。 私たち一人ひとりの思いは異なるかもしれませんが、「安房地域の医療を守り、発展させたい」という目標は同じであると信じています。過去の経緯は尊重しつつ、今ある現実を受け止め、ともに前を向いて進んでいくために、現任理事をはじめとした新体制へのご理解とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。


巻頭言 Vol.61 No.3 2025

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 専務理事 原 太郎

AIと医療  AIは私たちの生活を大きく変えつつあり、現代社会では欠かせない存在となっている。今後、医療のさまざまな場面でAIが活用されることで、人手不足や経験不足といった医療現場の課題を解決し、医療インフラに変革をもたらすことが期待されている。実際、当院でも2024年からAI診断技術を搭載した最新の内視鏡機器を導入し、医療現場でAI技術を取り入れている。内視鏡専門医の視点から見ると、診断精度はまだ十分ではないが、病変の発見に役立ったケースも多く経験している。AIのサポートは、人間の疲労や集中力の低下による病変の見逃しを防ぎ(人的エラーの軽減)、微細な色調変化を持つ小さな病変を指摘することもある。当院においても、AI診断を組み合わせることで、早期がんの発見率が向上していることを実感している。AIの診断能力は、内視鏡による消化器がんの診断だけでなく、胸部レントゲン写真における異常陰影の検出や心筋梗塞の診断に関しても、専門医と同等であるとの報告がある。現在は開発段階にあるものも多いが、膨大な医療データを学習したAIが、わずかな異常を察知し、各分野で高精度な診断を実現する可能性がある。最近ではAIを活用したオンライン診断システムも登場し、医薬品の開発や処方にも導入されつつある。また、マイナンバーカードを健康保険証として利用することは、1億人以上の国民データを集約し、医療AIの精度を大幅に向上させることにつながる。国も医療分野におけるAIの開発と利用を推進しており、データの集積とシステムの構築を進めている。 AIが医療分野にもたらす利点と欠点 このように、AIが医療に与える影響は計り知れず、その利用はすでに様々な形で実現している。しかし、その導入には多くの利点がある一方で、欠点や課題も存在する。以下に主な利点と欠点を示す。 AIが医療にもたらすメリット 1. 業務の効率化ができる 2. 医師・看護師の負担軽減につながる 3. 医療の精度と質が向上する 4. 地域の医療格差を解決できる 5. 24時間対応可能な体制づくりができる AIが医療にもたらすデメリット 1. 患者のプライバシー保護の管理 2. 信頼性の担保が難しい 3. AIが人間の判断を置き換えること 4. 導入、維持コストがかかる 5. 故障、障害のリスクがある AI医療の将来とその課題 AI医療における重要な課題の一つは、医師がAIの診断を過信し、「AIパターナリズム」に陥るリスクである。これは、AIの診断が正しいと信じ込み、自らの判断を無視してしまう状況を指す。私たちはAIの判断をどの程度まで受け入れるべきか。ある研究では、多くの医師が自らの臨床的見解と矛盾する場合でもAIの診断を受け入れることが報告されている。つまり、医師がAIに依存し、患者の症状や自身の臨床的判断を無視してまでAIを信頼する事態が生じる可能性がある。AIの進化は医療だけでなく多くの分野に利便性をもたらす一方で、個々の経験が排除され、「AIが最高のエビデンス」として位置づけられていき、人間の存在価値が低下していくことも懸念される。AI診断が最良の選択肢となった場合、医師の判断や人間の存在はどのように変わっていくのか。医師は、治療を受ける患者の感情や信念、文化、宗教など、治療に影響を与えるあらゆる要素を考慮し、患者の診療にあたる存在である。患者はときに、医療行為そのものだけでなく、不安や苦しみを共有したり、安心感や安らぎを医師に求めている。AIは診断や治療の選択肢、技術的な能力において優れているが、人間のような感情を持たず、患者と共に意思決定を行うことはできない。AIは、最終的な判断を受け手に委ねるだけの存在である。医師は一人の人間として患者と向き合い、関わるべきだと考えている。この点は、今後も変わらない医師の存在意義であり、患者が人間である医師に求めるものだと思う。各国で人間の知能をはるかに超えた人工超知能を持つASI ( Artificial Superintelligence)の開発が激化する中、未来の医療に対する期待と不安が交錯しているが、この流れを止めることは難しいであろう。しかし、医療AIがどれほど普及しても、最終的な治療の決定権は人間にあり、AIは医療スタッフの効率を向上させるためのツールとして位置づけられるべきである。 安房医師会におけるAIの活用法 安房医師会は各医療機関と行政の連携が進んでいる地域であり、早期にAIを活用した最先端の健診システムを構築できる可能性がある。マイナンバーカードや医療DXのシステムから、個々の住民のデータを健診システムに投入することで、従来の一律な健診から、各疾患リスクの高い人に、必要なタイミングで健診通知を行える可能性がある。AI技術は課題もあるが、うまく活用することで新しい健診システムの確立が期待できる。


巻頭言 Vol.61 No.2 2025

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 副会長 野﨑益司

mRNAワクチンの定期接種化に思うこと  COVID-19に対するワクチン接種が始まって4年が経過した。2020年初頭、すでに欧米では多数の死者が出ていたが、我が国の感染状況は、PCR検査体制の不備による過小評価もあるが、一応は穏やかな様相を呈していた感があった。しかしそんな中、有名タレントの感染死は国民に危機感を与えるに十分な出来事であり、更には厚労省アドバイザリーボードの一員であった西浦北大教授の数理モデルに基づく“無対策で42万人死亡説”は余りにも衝撃的であり、それらをもとに政府は思い切った行動制限策を講ずることとなった。  緊急事態宣言は感染症のアウトブレイクに対し有効な手段である一方で経済的損失は計り知れないほど大きく、このため感染対策のもう一つの柱であるワクチン接種の早期開始が急務として、人類初のmRNAワクチンへの期待感は大きかった。但し開発から実使用までの期間が余りにも短く、安全性の問題が払拭されないままでの見切り発車であったことは否めない事実であろう。  安房医師会ではワクチン接種に先立ち自治体担当者を交えたワクチン対策会議を早々に立ち上げ、ほぼ2週間ことに情報交換を行うと共に、高齢者施設などへの訪問接種も円滑に行えるよう対策を講じてきた。幸い各医療機関の協力もあり、2021年6月からまずは高齢者を対象としたワクチン接種をいち早く開始することができた。  mRNAワクチンについては、当初95%の有効性を有し、2回の接種で十分な免疫力(終生免疫)が得られるとアナウンスされていたことから、我々がまず行うべきは早期に集団免疫を獲得することであり、そのためにもより多くの住民に、そしてより迅速にを目標にワクチン接種を行なった。当初、菅首相は国会で1日100万回接種を目指すと答弁していたが、気がつけば1日の接種回数は150万回にも達していた。のちに批判の対象に挙げられることにもなったが、接種実施医療機関に対する手厚い補助金が功を奏したこともあり、ワクチン接種体制から見た我が国における感染対策は万全を期した感があった。しかし2021年11月に南アフリカでオミクロン株が発見されたのを契機に日本の感染状況は一変してしまった。いわゆる第6波以降の感染爆発である。  最近になり(トランプ政権となってさらに)SARS-CoV-2武漢株の研究所流出説はほぼ確定的となったが、オミクロン株(弱毒株)においては更に合目的的とも思えるような不自然な変異が多数存在することが判明した。その結果、ウイルス要因としての感染力増大(ACE 2 receptorを介さないウイルス侵入?)とともに、ワクチン接種による負の要因としてのIgG4の増加やADE(抗体依存性感染増強)なども感染爆発の要因になったと考えられている。だとすれば、これら要因はスパイクタンパクを合成するmRNAワクチンの不可避的欠陥なのか、それとも頻回接種がもたらした予期せぬ結果だったのであろうか。  イスラエルはmRNAワクチン接種をいち早く行なった国の一つであるが、4回目の接種後にこれまでにないほどの感染爆発を来たし、以後接種を中止したところ、その後2回の小さな波を経てCOVID-19が終息している。逆に我が国では5日目の接種以降、新規感染者数が世界で最多という汚名を着せられることになる。世界中の多くの国がワクチン接種をほぼ3回で中止している中、日本だけが頻回接種を行い、そして今もなお我々の医療機関ではCOVID-19患者の来院が絶えることがない。  現在、世界中のラボでウイルスの機能獲得研究が行われていることはすでに周知の事実であり、今後再び偶発的に、あるいは何らかの意図を持って流出する可能性は全くないとは断言できない。それらに対するfirst aidとしてmRNAワクチンは理論上有力な手段の一つであることは間違いない。しかしその一方で、その副反応である接種後の死亡や種々の疾病報告は枚挙にいとまがない。すなわちmRNAワクチンは諸刃の剣と言っても決して間違いではないだろう。  昨年10月から高齢者を対象に定期接種が開始されたが、全国的に見ても接種者数は大幅に減少している。ネット情報を通じて、すでに多くの高齢者もワクチン接種の必要性と安全性に強い疑問を感じているのではないだろうか。オミクロン株以降、mRNAワクチンは重症化予防にのみに有効であると厚労省は伝えているが、これとて科学的根拠がどこにあるのか実に疑わしい。  あれほど恐れられたCOVID-19は、5年の歳月を経て通常の感冒と何ら変わらぬ感染症になった。この現状において、今後も定期接種としてmRNAワクチンを打ち続けることが果たして是と言えるのかどうか。むしろこのワクチンが本当に必要となるような緊急事態の際に、国民の不信感が集団接種の阻害因子となることの方がより重大な問題なのではないだろうか。  今一度、mRNAワクチンの定期接種化に対し、改めて議論されることを願っている。


巻頭言 Vol.61 No.1 2025

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 会長 原  徹

新年を迎えて       

新たな年を迎え、皆様方には益々ご清栄のことと御慶び申し上げます。 本年も安房医師会の発展と活動の充実を目指し、取り組んでまいりますが、昨年6月の役員選挙を機に明らかになったご批判やご不満、さらには公益法人としての監査指摘に対する適切な対応が必要である現状を深く認識しています。また組織運営の基盤となる定款・細則に関しても、前例の無い役員選挙を経験した事で内容に疑問が生じる場面があり、適切な対応が必要な状況でもあります。   当医師会の特徴として、勤務医会員の割合が多い一方で、様々な理由により、総会など医師会行事への会員の御出席が少ない現実があります。 一方、定款第18条では「総会の決議は、総正会員の議決権の過半数を有する正会員が出席し、出席した当該正会員の議決権の過半数の同意をもって行う。」と定められています。 要は総会が成立するには総正会員の過半数が何らかの形で出席すること。さらに出席した議決権をもつ当該正会員の過半数の同意がなければ総会での決議を得る事は出来ません(一部事項では3分の2以上が必要です)。 安房医師会の正会員数は昨年6月の定時総会時点では292名、当日参加された総会出席者数は35名でした。このように現地参加の出席者だけでは、総会は成立せず、重要案件などの決議もできない状態に陥ります。そこで議決権の代理行使がどうしても必要になります。安房医師会では定款19条により「やむを得ない理由のために総会に出席できない正会員は、他の正会員を代理人として議決権の行使を委任することができる」とされています。もちろん委任先は決めなければなりませんが、何らかの事情で委任先を明記できない場合もあります。 そこで総会の開催通知に添付された委任状には、その中に「※委任者が空欄の場合は会長への委任といたします」と明記されています。 何故委任先が会長で、議長では無いのか? その理由として本会では総会の議長は総会開催後に当日出席した正会員の中から選任され、その任期は議案・議件等の終了をもって任を解く形であること。その選任方法に関しては定款では定められていませんが、昨年6月のように複数の議長候補がある場合、何らかの方法で選任する必要があります。そしてその行為は「総会での決議」になります。その為、選任方法が選挙となった場合は前記の条件が必要であり、そのため「議決権の委任先として議長は相応しくなく、現職の会長を委任先とする」との解釈を県の政策法務課が行ないました。 そして前回、令和2年の本公益法人に関する監査の際に指導を受けたものです。 また役員選挙、すなわち「理事及び監事の選任を行う総会での決議」では議長を委任先にすると、誰を議長に選任するかが大きな影響力をもちます。 翻って総会の出席率が高い法人では議決権の委任を認めない出席者のみの直接選挙も一見可能かと考えられますが、その際でも全会員の議決権については法律でも認められており、定款上でも定められているのが一般的です。 安房医師会でも前述したように定款第19条で明確に定められており、やむを得ない欠席者の権利も守っています。 一方代議員制度を採用する組織の場合は選任された代議員の代議員会への出席率は高く、例えば千葉県医師会では代議員会の出席率は概ね90%以上であり、また代議員が欠席する際には予備代議員に議決権を委譲することが可能です。要は出席者が過半数を超えるか、代議員制度を採り議決権を制限することが、総会運営に何も問題が生じない為の必要条件であり、現状では委任状による出席と議決権の行使を認めることが安房医師会では必須となります。 これまで医師会組織では会員数の増員を大きな目標にしてきました。 可能であれば医師免許を持たれるすべての方が医師会員になって頂くことを理想としています。 そのため会費を勤務状態で配慮することや医学部学生への情報提供、入会勧誘などを行い、積極的に会員増加を図って来ました。 そしてその基盤となるのが「会員1名につき1個の議決権である」と思います。この権利を維持し、なおかつ公正な選挙等の議件を取り扱うことが重要であると思います。 公正な選挙を行うには現行の定款細則に何らかの変更が必要でしょうか?  少なくとも安房医師会の役員は役員報酬も無く、役員となることで得る利益供与は殆ど無い状態であるかと思います。むしろ役員による奉仕、犠牲の上に会の運営が為されているのが実情です。だからこそ役員間や医師会職員、そして会員の皆様との相互理解、連携・協調が重要となってきます。 同時に関係諸機関との調整や各種問題に対する協力も継続的に必要な事項です。  ところで安房医師会内での連携は過去を振り返っても病診連携だけでなく病々連携 診々連携に関しても比較的良好な状態にあると思います。 新型コロナ感染症や災害時での相互連携も他に恥じないものでした。勿論さらに円滑な連携体制を構築することも医師会組織の重要な責務であると考えていますが、その基盤となる互敬関係、友好関係そして相互支援体制を向上させるにはお互いの批判や攻撃ではなく、理解と想いやりが重要かと思います。 そのためには様々な不安を払拭することが重要です。気候変動や天災・戦災以外にも大きな不安要因として「他人への不信、不満、疑惑」など人間関係の諸問題が上げられます。 ネット社会になり沢山の情報が次々と我々を襲ってきます。その結果、他人への批判、誹謗中傷なども増加しているのが現実です。「他人を許せない時は自分に大きなストレスがある時である」と思います。そんな時は「心の執着を手放し、心を軽くすること」が大切であるかと思います。「こだわりを捨て、不安を軽減すること」そして「他人を中傷しても人生は良い方向に進まないこと “Even if you defame others, it will not result in your life heading in the right direction.”」 このことを目標とし、また自戒と反省を踏まえ、本年は歩みたいと思います。 


巻頭言 Vol.60 No.6 2024

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 副会長 小林 剛

この記事を執筆している9月の時点で大分時間が経過しており、今更ではありますが今年は診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬のトリプル改定が行われました。特に診療報酬改定に目を向けますと、重症度、医療・看護必要度の該当患者要件や療養病棟の医療区分などが見直され、全般的に入院医療にとって厳しい内容となりました。また、高齢者の急性期医療を担う病棟として地域包括医療病棟入院料が創設され、超高齢化社会に向けて本格的に舵を切った印象です。別の側面からは医療従事者の賃上げに踏み込んでベースアップ評価料が新設されましたが、国が目指す1年目2.5%、2年目2%の賃金上昇は経営者にとって非常に悩ましい問題です。今後物価高への対応も医療機器、医療材料などの「控除対象外消費税」の扱いと同様、診療報酬による現在の補填方法が妥当であるのか、2年間で十分な分析と検討が必要となるでしょう。  超高齢化社会にあたり以前より団塊の世代が75歳以上となる2025年問題、そして団塊の世代ジュニアが65歳以上となる2040年問題が取りざたされています。ただ現在の高齢者に関して言えば、20年前の高齢者と比べて認知機能、身体能力共に10歳程度若いという報告があります。確かに最近の高齢者は私が子供の頃にイメージしていた高齢者と全く違います。「サザエさん」の磯野波平が54歳、磯野フネが52歳という設定を見れば、いかに昭和の時代の年齢イメージと比べて今の高齢者が若いか、よくわかります。更に高齢者の平均余命は延伸し、安房地域では100歳以上の方を見ることも決して珍しくありません。反対に私が館山市の介護認定審査を行っているケースを見る限り、80歳未満の介護認定申請者は非常に少ないことがわかります。そういった現状を踏まえますと、医療における2025年問題は本当にあるのか?という疑問が生じます。1年後である2025年に変わるのはあくまで保険や雇用上の問題であって、医療・介護が必要な高齢者が突然増えるとは考えにくいことです。団塊の世代が平均余命に近づいて更に85歳、90歳になる時に本当の医療・介護問題が起こるのではないでしょうか。つまり2035~2040年あたりと思われます。2040年になりますと団塊の世代ジュニアも高齢者になりますので(私もそうですが)、医療介護の分野のみならず、社会全体で労働力不足の問題が悪化している事が推測されます。特に介護における需要と供給のバランスは大きく崩れているでしょう。  安房地域では2024年4月1日時点で14歳以下の子供は9532人と1万人を下回っており、10年前の平成26年よりも3割以上減少しています。また、令和5年度(館山市は5年)1年間の出生数は、館山市199人、鴨川市127人、南房総市91人、鋸南町9人 と学校の統廃合もやむを得ない数まで減少しました。婚姻、出産が減少している社会的風潮に加え、安房地域で生まれた子供も残念ながら人口密集地域に移ってしまうことが多いという現状があります。安房地域は全国の田舎に比べて決して地理的に不利な場所ではありません。今後地域全体のあらゆる職種が連携して若者が地域に残る、あるいは移住してくるような、住みやすく子供を育てやすい地域づくりを行っていく必要があります。そのためには今まで守られてきた地域の古い形式を一部捨てる覚悟も必要かもしれません。今後医師会は医療介護福祉の部門において行政と連携し、既存の地域の問題のみならず地域活性化における問題を把握、具体的解決策を模索していきたいと思います。


巻頭言 Vol.60 No.5 2024

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 会長 原  徹

この度、私はこれまでに前例の無い理事選挙等を経て再度公益法人安房医師会の代表理事として選任されました。 今回で4期目の就任となり、これまでの3期6年間にわたる職位の長期継続に対し、皆様の御批判も少なくないかとおもいます。 私も『前期の終了を持って退任を』と考えていましたが、様々な理由により今期も再度代表理事を務めさせていただきます。 勿論、自身の高齢化から知的能力、また体力の低下も否定できないのが現実ですが、新たな役員構成ならびに新人理事の登用などにより今期の理事会は従前より明るく活性化された運営・活動になることを目標にしています。そして安心して次の世代へ安房医師会を継ぐことが今期役員の務めであると考えています。 私が安房医師会の理事を拝命したのは平成14年、それから22年が経過しました。この間に千葉県医師会、日本医師会だけでなく県内の他地区医師会とも良好な関係を構築することが出来ました。またこれからも安房地域の行政や関係諸団体とも顔の見える関係を保つことで安房医師会の業務が円滑に執行できることを願っています。今期は行政との間で新たな委託事業を受託することにより財務基盤の安定を図ること。また新たな就業規則を職員との合意を前提に再構築する事の2項目が喫緊の課題です。 すべてが相手のある問題であり、相互の信頼の上での合意が必要な作業です。どうか新たな役員を加え、一層活性化した安房医師会に対し、一層のご理解ご支援をお願い申し上げます。


巻頭言 Vol.60 No.4 2024

2025/12/10(水)

巻頭言

安房医師会 理事 福内 正義  

2020年から続いていた新型コロナウイルス感染症が昨年5類に変更になりポストコロナの時代になりました。しかしコロナウイルスは完全になくなった訳ではなくところどころで発症者がでており油断はできない状況が継続しています。  その一方団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題といわれていた時期もいよいよ来年むかえます。その先には団塊の世代ジュニアが高齢者となる2040年代も近づいております。 本格的な少子高齢化の時代はすでにはじまっておりその加速度は国の試算よりもはやまっていると言われています。そのなかで今年春には6年に一度の診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス報酬の同時のいわゆるトリプル改定をむかえました。診療報酬本体は088%のプラス改定となっており、これは医療の質の向上や医療従事者への処遇改善、医療DXの推進などを目的に設定されております。 昨今日本国内で賃上げムードが強まっておりますが、医療機関においては収入の増加よりもコストアップがおおきく、他の業界なみの賃上げに対応することは難しいのが実情です。物価上昇率も2024年度には2%後半になりその後2%程度で推移していくといわれています。これを上回る賃上げにより実質賃金値上げとなりますが医療機関で財源確保が困難です。少子高齢化がすすみ労働人口が減少していくなかで、優秀な人材を医療業界に来てもらうには給与以外の面でも各施設が創意工夫を続けていく必要があると思われます。 それでも他業界なみの賃上げが出来ない中で、地域住民の健康と医療を守っていくという医師会の使命を全うし続けることにどこかで限界がくるかもしれません。今後思い切った財源投入や制度改革、システム改革することを国に期待したいと思います。


巻頭言 Vol.60 No.3 2024

2024/06/27(木)

巻頭言

安房医師会 理事 原 太郎

日本医師会の役割と改革

 

新型コロナの終焉と2024年度 診療報酬改定

新型コロナウイルス感染症が5類感染症に位置づけられ、日本経済にも明るい兆しが見え始めていることは、多くの人々にとって希望の光となっている。特に、日経平均株価が過去最高値を更新したことは、経済の回復を象徴する出来事であった。しかし、その一方で2024年2月の診療報酬改定に関しては、医療現場における深刻な懸念を引き起こしている。特に、高血圧症、脂質異常症、糖尿病の3疾患を特定疾患療養管理料の対象疾患から除外する決定は、一般開業医にとって大きな打撃となり、既に厳しい状況にある医療現場にさらなる負担をもたらすことになる。物価高騰や賃金上昇の中で、診療報酬の6回連続マイナス改定は、日本の医療を取り巻く環境に対する危機感を強めるものである。このような状況の中で、日本医師会の役割は非常に重要であり、医療政策の決定においてより積極的に提言をしていくべきだと思う。医師会が国に対して必要なことをしっかりと伝え、積極的に提言を行う組織とならなければ、今後の日本の医療は崩壊してしまうのではないかという危機感もあり、日本医師会について少し考えてみた。

 

日本医師会の現状と医療界の危機

日本医師会と医療界が直面している問題は、多岐にわたる。日本医師会は医療政策や制度の改善を目指し、政府や関連組織との交渉において重要な役割を担っている。しかし、その加入率が約50%と低いため、医師会の組織力や影響力が十分発揮できていないように感じる。日本医師会は組織改革や会員増加のための努力を続けているが、勤務医は医師会へ加入する直接的なメリットを感じにくく、加入率が低い。おそらく、日本医師会が開業医の利益を優先しているというイメージが強く、勤務医からの支持を得られていないという側面もあるのだろう。一方で、病院の診療報酬の問題も深刻である。勤務医が診療報酬決定プロセスにほとんど関与していないため、高度な医療行為に対する報酬が諸外国に比べて低く抑えられてしまっている。働き方改革もあいまって、このままでは巷の病院の多くはより厳しい経営をせまられることになるだろう。病院の経営の悪化は、医療の質の維持や最新医療の提供を困難なものにする。さらに財務省は医療費削減のために医師の給料を減額する方針であり、これが実現すると医師の待遇が悪化し、半ば自己犠牲の上に成り立っている厳しい現場からの医者離れが予想される。これらの問題を解決するためには、日本医師会の加入率を上げ、医師会の声が国に届くよう組織力を強化し、医師が本当の意味で働きやすい、働き甲斐のある医療現場に変えていく力が必要なのではないか。臨床医の意見を反映した診療報酬の見直し、そして病院の経営改善、医療の質を担保するような枠組み作りなども含め、医療界全体での改革が必要な時期が来ているように思う。

 

安房医師会の特徴

安房医師会は千葉県にある22地区医師会のうちのひとつであり、基幹病院の院長から一般開業医まで幅広い医師が理事として参加していることで、地域全体での医療連携が非常に強化されている。その結果、災害時や緊急時においても、迅速かつ適切な医療対応が可能となっている。都市部では救急患者が適切な治療を受けられずに重症化するケースが報告されているが、安房では「救急患者のたらい回し」になることはほぼなく、必要な治療を受けられる体制が整っている。また医師会の加入率が高く、行政との調整や救急・災害医療への取り組み、体制整備など、幅広い医療連携が可能である。以上のように、安房医師会は地域医療の充実と発展において重要な役割を果たしており、地方への移住を考えている方々にとっても、信頼できる医療体制の存在は非常に魅力的であり、安心材料となると思われる。地域医療のさらなる連携強化と発展に向けて、安房医師会のような組織の役割は今後も重要だと思う。

 

これからの都道府県医師会に望むこと

日本医師会をよりよい組織にするためには、地区医師会だけではなく、県医師会レベル、あるいは医師会全体での組織力の強化が必要である。安房医師会のようなバランスのとれた地区医師会の事例を参考にしつつ、都道府県医師会の具体的な課題を考えてみる。

 

  1. 勤務医の医師会への加入率向上: 勤務医の医師会加入率が低いことは、組織力の分散につながり、医師会全体の影響力を低下させる原因となる。特に千葉県医師会のように加入率が全国平均を大きく下回っている場合、勤務医にも入会のメリットを感じてもらえるような施策や、会費の減額などを積極的に行い、加入を促す必要がある。
  2. 勤務医枠の理事設置: 県医師会の理事に勤務医枠を設けることで、勤務医の声が直接医師会の運営に反映されるようにする。これにより医師会の政策決定において、より幅広い医師の意見が考慮され、県内の医療問題に対するより実効性のある対策が打ち出せるようになる。
  3. 医療連携の強化: 大学病院や基幹病院の管理部門に携わる人材が県医師会に参加し、県内の医療機関間の連携を強化する。これにより、災害時の医療連携や有効な医療施策の実行がスムーズに行われるようになる。(病院所属の医師が医師会に関わることで勤務医の医師会加入率増加も期待できる。)
  4. 啓蒙活動の強化: 医師や一般市民に向けて医師会の役割や活動内容をより積極的に情報発信し、医師会への理解を深めてもらう。

 

安房地域の人口減少は年々進んでおり、この地区の未来は国任せでは立ち行かなくなってしまうような危機感を感じる。今年は年始早々の能登半島地震に驚いたが、千葉県も地震危険度の高い地域であり、行政と連携した災害対策も重要になってくる。この先の様々な問題を乗り越えていくためにも、医療については地域から国レベルまで、医師会が強い組織力で連携し、医療界自らがより良い医療政策を作り上げていくことが重要ではないかと考えている。そのことはひいては国民が安心して利用できる医療環境の整備にも繋がるものと感じている。