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公益社団法人 安房医師会

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巻頭言 Vol.56 No.4 2020

2020/07/08(水)

巻 頭 言

安房医師会 理事 岡田唯男

なぜか前回の巻頭言も理事改選直後であった。前回の巻頭言では「よそ者、若者、馬鹿者(世の中や組織を変えるのはこの三者と言われています)」の立場を活かして頑張りたい、といったことを書いたが、房州での暮らしも20年目が射程距離にはいってきた。「京都十代、東京三代、大阪一代」(その土地の人間となるのに、京都は十代かかるが、東京は三代、大阪は一代でよい、十代住み続けて、はじめて京都人として認められる)」という言葉があるそうだが、房州はどれだけ住めばその土地の人間と名乗ることが許されるのだろうか?私が時々引用する詩に玉井袈裟男氏(信州大学名誉教授、農学者、社会教育指導者1925~2009)のものがある。そのまま下記に引用する。

風土という言葉があります
動くものと動かないもの
風と土
人にも風の性と土の性がある
風は遠くから理想を含んでやってくるもの
土はそこにあって生命を生み出し育むもの
君、風性の人ならば、土を求めて吹く風になれ
君、土性の人ならば風を呼びこむ土になれ
土は風の軽さを嗤い、風は土の重さを蔑む
愚かなことだ
愛し合う男と女のように、風は軽く涼やかに
土は重く暖かく
和して文化を生むものを
魂を耕せばカルチャー、土を耕せばアグリカルチャー
理想を求める風性の人、現実に根をはる土性の人、
集まって文化を生もうとする

ずっとそこに住む者にも、流れてきては去る者にもそれぞれの強みと弱みがある。日本中の、特に地方において人口減少が始まっている時代、関係人口(時々繰り返しやってくる人)の力も借りなければならない、日本自体がインバウンド(海外からやってくる人)の力も借りなければならない時代に、その人がずっと住み続けてくれる人なのか? その人は仲間なのか?余所者なのか?という問いを立ててその結果によって不利益が生じるような対応の仕方が生じることほど「もったいない」ことはないのではないだろうか? 日本は、特に地域はそういう余裕すらない状況だと先に気づいて、猫の手も借りる、役に立つものはなんでも使う、とやり方を変えた地域、集団だけが今後生き残れる時代のように思う。


巻頭言 Vol.56 No.3 2020

2020/05/10(日)

2020に思う・・・

安房医師会 理事 石井義縁

 新型コロナウイルスは、WHOがCOVID-19と命名した。そのWHOの感染症危機管理に大学の同級生であるS氏がいる。2月9日に、某局の衛星中継で新型コロナウイルス感染症のインタビューに答えていたのを、偶然にも観た。S氏は、「中国が早めに武漢を囲い込んだおかげで、一時的に海外への流出が抑えられたが、おそらく2月下旬まで持ちこたえるのが精いっぱいであろう」と語っていた。2月12日時点で、日本では検疫官や武漢からチャーター機で帰国した自宅待機の人が感染していることが判明。翌13日には、国内初の死者が報告され、同日、感染経路もわからない和歌山の医師の感染も確認された。S氏は、2月14日の日本環境感染症学会の緊急セミナーで講演をし、「新型インフルエンザ対策では、2009年のパンデミックの際に、日本は最も人が死亡しなかった先進国であり、今踏ん張って頂きたい」と締めくくっている。その後も新型コロナに関わった検疫官や医療従事者らの感染が相次いだ。これは、普段から清潔領域を守りながらの脱着の仕方に慣れない人がマスクやグローブをしても、感染防止対策は完全ではないということである。S氏は、前述の講演で、WHOではマスクは症状がある人、あるいはその患者の診療にあたる人以外は勧めていないと語っている。WHOは2月28日に、危険度を、「非常に高い」に引き上げ、3月4日には、日本国内の感染者数が1000人を超えた。3月12日に、WHOは、とうとうパンデミック宣言をした。4月に入りWHOは、手洗いや対人距離の確保といった対策が難しい場合には、マスクの着用は正当化されると見解を変えた。英国では、新型コロナ感染症に罹っていたジョンソン首相が4月5日にロンドンのSt Thomas’病院に入院し、翌日ICUに移った(ここは約20年前の小生の留学先である)。4月7日に、日本では千葉を含む7都府県に緊急事態宣言が発令された。いきつくところ、しっかりと睡眠と栄養をとって、感染してもそれに打ち勝つ抵抗力を維持することが、何よりも大事なように思う。

 今年は、一応オリンピックイヤーである。大学までかれこれ12年間陸上部一筋で過ごした小生にとって国立競技場は夢の舞台である。幸いにもそのチケットが当たった。WHOがパンデミック宣言をした日、ギリシャのオリンピアで聖火が灯され、3月20日に日本に到着した。しかし、予想どおり新型コロナ感染症の世界的拡大の影響で、2021年夏に延期された。とにかく今を踏ん張り、来年夏のオリンピックを、夢の舞台で観戦したいものである。

 余談だが、国立競技場の真ん前に、24時間営業の「ホープ軒」というラーメン屋さんがある。ナショナルスタジアムを訪れる際には、是非ここに立ち寄ることをお勧めする。


巻頭言 Vol.56 No.2 2020

2020/03/10(火)

自然災害に思う

安房医師会 理事 田中かつら

 年も改まり、すでに立春を迎え、時は年度末へ。しかし、まだ房総のあちこちにブルーシートが張られた屋根を見かける。通院される患者さんからも、続く雨漏りやカビの影響、風が吹くと眠れないなどの訴えを聞く。昨年の台風被害は過去ではなく、まだまだあの痛手から抜け出せていない。報道される新型肺炎もある意味自然災害の一つ。自分たちではどうしようもない脅威から、それでも身を守らねばならないことには変わりはない。正しい情報を得ることの大切さと、その情報を正しく伝えることの難しさを改めて感じている。

 前回の台風災害は様々な貴重な体験を与えてくれた。特に通信障害は、この何年も当たり前だった常識が崩れた。私が研修医時代(1985年頃)ポケットベルが主流。アナログの携帯電話が出始めた頃でもある。携帯の通信状況は悪く、着信音が鳴っても繋がりが悪いため、近くの公衆電話で掛け直した記憶が蘇る。今回の15号台風被害で固定電話、携帯電話、公衆電話の全ての通信手段が途絶えた。微かな電波を求め、診療の合間に市内を移動。やっと繋がった電波は途切れ途切れ。地区の被害状況や、地元以外の情報は皆無であった。今日明日の医師会理事会開催や行政の会議がどうなったか?いろいろな手立てで情報を得ようとした。そして、どうやって知り得たか?それは、最も原始的な方法「人伝て」であった。孤立した医療機関どうしをつなげてくれたのは、顔見知りの行政の方々や、いつも訪れてくれる卸業者、災害時のノウハウを持っている製薬会社、そして介護・福祉関係の仲間達であった。もともと35年前はこうだったんだと、再度確認した次第である。便利な手法に慣れ、忘れてしまった「大切な人たち」を気づかせてくれた。そして、自分が支援されて初めて「支援」とは何かを知る。

 今では停電の大変さについて、多少は笑って人に話すことができる。しかし、同じことがまた起きた時にもっとうまく凌ぐことができるだろうか?何も問題がなく普通に生活できている今、自分に問われていると思う。

 当時を振り返ると、やはり自分のことで精一杯であった。しばらくして開催できた安房医師会理事会では、被害状況の確認が精一杯。更なる支援行動についてあまり心が及ばなかった。それは、きっと私だけではないだろう。被害が大きければ大きいほど、客観的に俯瞰した状況になれないからだ。次の災害時にはもっとうまくできるであろうか?甚だ不安ではある。今回の検証がまだ十分にできていない。十分な電波や電気がある中で、忘れてはいけない体験を思い出す機会は続けなくてはいけない。非日常から日常を考えることが、さらにより良い日常を得ることができると信じている。

 安房医師会の使命は、地域住民へ医療を安定して提供することである。非常時も同様だ。提供する医療機関の安全を確認し、安否確認を含めた情報共有と、災害非常時に必要な対応を随時提供し続けることである。

 では、情報をどうやって共有するか?刻一刻と変化する災害時医療内容を把握するには。通信以外の方法は何があるのか?安房には安房のつながり方があるはずである。人とのつながりをもっと活かせないか?繋がりの確認、ルート確認は必須である。

 災害時、細かく地域医療ニーズを拾うために、避難所を担当医制にして地区避難所へ出向くことも検討が必要と考える。今回、出向いた現場がたくさんのことを教えてくれた。医師一人で避難所の方々に何ができるわけではないが、少なくとも医療とつながっている安心感は提供できるはずである。地域と医療を繋げることも医師会の使命である。

 次に来る災害までにやっておくことはたくさんある。歩みは止めている時間はない。


巻頭言 Vol.56 No.1 2020

2020/01/10(金)

安房医師会 新た年を迎えて

安房医師会 会長 原 徹

平成から令和の時代になり初めての新年を迎えました。

本年も皆様のご健勝・ご多幸を心から祈念しております。

振り返って昨年は安房地域にも大きな自然災害があり、将来に対する不安が一層増大してしまいました。このために以前から始まっていた地域での少子高齢化と人口減少がさらに加速しないことを願っています。ところで国から出された資料によると2018年の出生数は全国で92万1,000人、一方死亡者数は136万9,000人となり人口の自然減小数は44万8,000人となりました。この現実を踏まえ、社会の基盤としての医療提供制度の在り方も、変わらざるを得ないのが実情かと思います。

翻って安房医療圏(館山市 南房総市鴨川市 鋸南町)には16の病院 85の診療所があり128,000人にまで減少した圏内住民の健康を支えています。一方全国にある病院数は2018年末で8,412、診療所数は101,471との統計があります。この中から経営状態が厳しいとされた公立の病院424施設が昨年10月に公表されました。千葉県内でも10病院が挙げられ、その中には安房の2病院も含まれています。そして現実には厳しい運営状況に置かれた施設はこれらの施設の他にも多数あると考えられています。

皆さんは2008年春に行われた安房医師会病院の経営委譲を覚えておられますか? 現在も全国的に進められている“地域医療連携”の理想の形でもあった「医師会立」病院の運営が困難となり、社会福祉法人・太陽会にその経営を委譲し、現在の安房地域医療センターに生まれ変わった大きな変革でした。またこれに前後して県内では銚子市立病院、鋸南国保病院の運営問題も浮上、千葉県の医療提供制度の問題が大きく注目されました。当時からもうすぐ12年が経過しますが、問題の根本的な解決には至らず、地域医療機関の連携・統廃合・組織改革などを真摯に議論しなくてはならない状況が続いています。

ところで医療は会社などの営利目的の組織とは異なり「社会共通資本」(Social common capital)の一部ではないのでしょうか? この概念は宇沢弘文氏が提唱したもので1991年5月に当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世が出された回勅「新しいレールム・ノヴァルム – 社会主義の弊害と資本主義の幻想」:“社会主義と資本主義の2つの経済体制の枠組みを超えて、新しい世紀への展望を開こうとする回勅”がその基盤にあります。これを基に1.「ゆたかな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置を造ること」そしてこの社会装置として医療機関や教育機関が位置づけられました。また2.「この装置は社会全体にとっての共通財産であり、それぞれの社会的共通資本に関わる職業的専門集団により、専門的知見と職業的倫理観に基づき管理運営されること」 3.「一人ひとりの人間的尊厳を守り、魂の自立を保ち、市民的自由を最大限に確保できる様な社会を目指す」ことが謳われています。

しかし現実にはヒポクラテスの誓いを守り医療を行うと医学的最適性と経済的最適性の両立は困難な問題です。この様に社会的共通資本として医療を考えると1.「各医療機関の意思が高い職業的能力と倫理観で、最善の診療行為をおこなっているか?」 2.「医療資源が効率的に配分されているか?」などの疑問が生じます。

現在、安房地域では学校組織の統廃合が進められていますが、公立学校の統廃合と私的な経営母体がその多くを占める医療機関とは全く異なる視点から議論を進めなければなりません。そして絶対的な人口減少から「独立した二次医療圏としての安房医療圏の在り方も再考しなければならない」と言う現実を踏まえ“公益法人としての安房医師会”は今年も歩んで行く覚悟です。


巻頭言 Vol.55 No.6 2019

2019/11/10(日)

巻 頭 言

安房医師会 理事 杉本雅樹

目下バタバタしています
台風15号の影響により、安房地域のみならず千葉県全体で多大なる被害を被りました。未だ復旧の目処の立たない地域があるかと思うと、心がいたたまれます。
台風直撃時の私は、仕事柄携帯の着信音とバイブレーションには敏感ですが、日頃の寝不足のためか全く気づくことがなく、目が覚めてはじめて事の重大さに気づきました。
我々のようなお産を扱う連中は、仕事と生活の境目が曖昧なため、家庭の心配よりも夜勤のスタッフ、入院の患者さん、これから産気づく妊婦さんのことで頭がいっぱいです。おまけに通信機器は使えず、周りの状況がわからないため、とにかく施設で待機し、来るべきお産に備えようということになりました。
半ばキャンプ生活を強いられている中、停電の間の3日間で2名の出産がありました。産ぶ声とともに、周りは歓喜の声で満たされて、大変思い出深いものとなりました。
みなさまも様々な体験とともに、今後の診療に大きな課題を残すことになったこと思います。安房医師会では、災害対策委員会を設置し、通信網の整備、ハザードマップの再確認、備蓄の準備...などなど、できるところから積極的に活動しています。そして、まだまだ続くであろう被災後の住民の健康被害に対し、真摯に対応していきます。
そして、我々が運営している産院群は、この体験を機に、より強固なネットワークを構築するために、あ~でもない、こうでもないとバタバタ試行錯誤しています。

 


巻頭言 Vol.55 No.5 2019

2019/09/10(火)

巻 頭 言

背水の陣

安房医師会 会長 原 徹

 この5月には年号が平成から令和に代わり、G20・国際会議を経て7月の参議院選挙も無事終了。我が国だけでなく地球全体が安寧な状態を保ち、人々の暮らしが平穏である様にと祈る每日です。翻って自分自身に目を向けると年齢は着実に増し、それに反比例する様に体力・種々の能力は低下、さらに目を周囲に向けると地域社会も元気を無くし、将来への不安だけが着実に増大しています。そんな状況下で多くの開業会員が悩んでいる問題の一つが事業の相続・継承の問題であるかと思います。法人・個人の差、規模の大小に拘わらず事業の継承責任を問われ、その方策に頭を痛めておられる方も少なくないと思います。現実には事業継承に必要な財の維持に配慮した相続が必要となり、単なる「平等」では済まされない状況に陥ります。
 ところで“馬鹿者”の事を「たわけ」と言うことがありますが、たわけ(=田分け)が語源とも考えられています。要は「相続する子供等の人数で田畑を分けると、孫・曾孫と代を受け継ぐ間に面積は減じ、結果として家は衰退してしまうこと」がその理由とされています。要は資産の分散は事業の継続を困難にしてしまうとの意味です。逆に「頼りになる」の「たより」の所以は「田寄り・田を寄せ合う」であるとも言われています。どうも自由や平等が尊重されると資産だけでなく責任も分散し、その結果、農業だけで無く様々な事業・産業も衰退してしまう危険を孕んでいるのでは?と危惧します。
 話は変わりますが「漁夫の利」は、「肉を食べられまいとする蛤と、貝に嘴を挟まれたシギが争っているところを通りがかった漁師が両者を難なく生け捕りにした」との故事に由来しています。また同様に「犬兎の争い」も足の早い犬と兎が共に倒れ、通りがかった農夫が獲物を独り占めしたことが語源とされています。家庭内の相続問題と同様に、地域内でも我々住民が小競り合いをせず、大切なものを協力して維持継承すること。それには外部からの圧力・干渉に屈せず、且つ滅私奉公の精神を持ち努力を惜しまない事が必要であると考えます。「人間万事 塞翁が馬」、幸(福)と思えることが、後になって不幸(禍)となることも、またその逆もあります。
 我々が住む安房地域は房総半島の南端部に位置し、地政学的にはまさに「背水の陣を敷かざるを得ない場所」に位置すると言えます。この地域から退けば海で溺れてしまう。そんな覚悟を持って将来を考え、地域が活性化することを期待しています。可能であれば「はやぶさ2」の様に大きな希望と計画を持ち、次の世代へ夢を語り継ぎたいものです。


巻頭言 Vol.55 No.4 2019

2019/07/10(水)

巻 頭 言

千夜一話

安房医師会 理事 野﨑益司

 高コレステロール血症治療薬としてスタチンが上市されてからすでに30年以上の歳月が経過した。その間、各所で数々の大規模臨床試験が実施され、その結果およびメタ解析から導き出されたのが“the lower, the better”である。LDLコレステロール(以下LDL-C)を下げれば下げるだけ動脈硬化に起因する脳心血管イベントを低下させることができるというのは、どうやら現時点において真実だと考えていいようである。では実臨床において、一体どこまでLDL-C値を下げるべきかという疑問(clinical question)に対しては、これまでのエビデンスをもとに諸外国の学会等で目標値が設定されている。いわゆる “Treat to target”という方式であるが、敢えてこう表現しなくても我々にとっては馴染みのある概念である。我が国では日本動脈硬化学会がリスク区分別管理目標としてLDL-Cの絶対値を設定しており、我々は専らこのガイドラインに準じて日常診療を行っている。しかし改めて考えてみると、この“the lower, the better”と“Treat to target”は本当に整合しているのであろうか。2014年に発表されたIMPROVE-ITはあくまでも二次予防を対象とした試験であるが、すでにLDL-Cが正常域=targetに到達している患者に対し、スタチン+エゼチミブでさらにLDL-Cを平均53.2mg/dlまで低下させることにより、急性冠症候群の再発を有意に防止することができたことを示している。この結果を直ちに一次予防に当てはめるのは無理だとしても、管理目標値をリスク区分別に設定するという、言わば薬剤安全性と医療経済(費用/効果)を配慮した穏やかなやり方よりも、多少なりとも心血管リスクを有するグループに対しては、一律にLDL-Cの目標値を70mg/dl以下とするというアイデアも強ち無謀とは言えないのではないだろうか。
 蛇足であるが、米国心臓協会/米国心臓病学会では二次予防における超高リスク患者を除き、他のカテゴリーにおいてはスタチン投与が前提となるものの、LDL-Cの管理目標値は敢えて設定しないという方針を取っている。この方式は“Fire and Forget(軍事用語!)”と称されており、勿論諸外国のみならず米国内においても批判的意見が多い。ましてや生真面目な(?)日本人にとって、この考え方を到底容認することはできないだろうが、“どこまで”下げるかよりも“どれだけ”下げるかを重視したこのスタンスは、むしろこれまでのエビデンスを正確に反映させたものかもしれない。ちなみにこれまでの日常診療においてはすでに何の違和感もなくこれを実践しているのであって、ワーファリンからDOACに変更(fire)した途端、我々はモニタリングを完全にforgottenしているのである。
 EBMを唱えられてから久しいが、clinical medicineという領域においては純粋科学以外に医療経済学という側面も考慮しなければならない。我々保険医にとって診療枠という“足かせ”が存在する以上、各種ガイドラインに則った診療が求められることは確かであるが、それらを十分認識した上で患者個人に即したいわゆるテーラメイド医療もこれからの時代に求められる姿であろう。そしてさらには、これらの情報をRWD(Real World Data)として蓄積していくことにより、より一層科学的根拠に基づいた医療サービスの提供ができるようになるのではないだろうか。


巻頭言 Vol.55 No.3 2019

2019/05/10(金)

巻 頭 言

安房地域保健医療連携・地域医療構想調整会議の今後について

安房医師会 専務理事 鈴木丹

 平成30年度は、第1回目は7月30日、第2回目は10月18日、第3回目は今年の3月6日に開催されました。
 特に 10月18日の 第2回目の 会議の中で突然、南房総市の石井裕市長から『南房総市・富山国保病院と社会福祉法人太陽会・安房地域医療センターの2法人が参加する新たな「地域医療連携法人」設立を予定している。』との発言があり議場は一時騒然となりました。
 賛否両論がありますが、今回の巻頭言の趣旨と方向性が異なると判断し私見を述べません。第3回目の3月6日の会議で予定議題の検討終了後に原 徹安房医師会長より安房郡(3市1町)では、看護師の人数は充足してきたが、介護施設の介護士の人数は 極端に不足しているとの発言がありました。3市長も現状を把握し少し考え込んでいましたが、南房総市の石井裕市長から「それなら、看護師不足の時に3市1町で補助金を出したように介護士になりたい人に補助金を出す仕組みを作ってはどうか。」との発言がありました。館山市の金丸謙一市長と鴨川市の亀田郁夫市長からも反対意見はありませんでした。この3回の安房地域保健医療連携・地域医療構想会議で反省すべき所と今後について考えたいとおもいます。

1、この会議は3市1町の市長と町長と担当部課長・安房保健所・安房医師会・歯科医師会・薬剤師会・各病院長・老人保健施設協会・高齢者福祉施設協会・看護協会安房地区部会・全国健康保険協会千葉支部・健康保険組合連合会千葉連合会に千葉県福祉政策課の方々が出席する 大きな会議です。

2、使い方によっては 非常に大きな力があるのですが、現状では国や県からの報告と都合の良いガス抜きになっているような気がします。

3、そこで、次回からは医師会・保健所・3市1町の部課長・各医療機関の有志が事前に検討会を開いて安房からの議題提出と議題の方向性を決めてから本会議に臨みたいです。

4、毎回傍聴席に来られる県会議員・市会議員・町会議員の方々に発言権があればと思いますし、意見も聞きたいです。

5、最後に、この会議が発展し県や国との堅実な連絡網となることを希望します。また、地域の医療と介護の質の向上を含めて地域の皆様に少しでもお役に立てる事を切に願います。


巻頭言 Vol.55 No.2 2019

2019/03/18(月)

巻 頭 言

― これからの医療・介護 ―

安房医師会 副会長 竹内信一

平成最後の年を迎え、健康保険高齢受給者証を目の前にしてボーッとしている自分の姿があります。あ~あ、年をとったなぁという感じです。人生100年時代到来と世間では叫ばれて、平均寿命は今後も伸びる傾向にあり、長寿化への備えが必要な時代に突入しているとも言えます。私も今年古希となり、老後のことが脳裏をよぎることがあります。働き方改革や定年制などといったことを考えると、やはり今後の健康面が一番気になっています。もちろん蓄えのことも気になりますが?健康のことを考えるとありふれたことではありますが、これからの医療や介護のことが切実な問題となってきます。その場合のキーワードは、自分なりに考えて2つあると思っています。

ひとつは医療面に関することで、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)です。それは、人生の締めくくりの時期に家族や医療・ケア関係者等が寄り添うこと-即ち将来の医療及びケアについて当事者を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合い、意志決定を支援するプロセス:アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を具体化することです。そのためには、当事者の意志が尊重された医療及びケアを提供することが重要で、この事は残された家族等にとっても極めて重要な意味を持つため、現在は「人生会議」の愛称に決定されています。そのため、今後はリビングウィルが益々重要な意味を持つと私は考えています。

もう一つは介護に関することで、フランスの高齢者ケア技術「ユマニチュード」です。ユマニチュードは「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語の造語です。ユマニチュードの哲学では、ケアをする時に「人とは何だろう」と考え続け、最終的に「人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができる」と定義しました。その結果、認知症を含めた介護の場面では、この視点から「見る」、「話す」、「触れる」、「立つ」が大切となってくるのです。

これからの医療・介護の世界では、相手は人間の尊厳を持った存在であることを忘れずに接することが大切と肝に銘じて、もうしばらく医療の仕事に携わっていきたいと思います。


巻頭言 Vol.55 No.1 2019

2019/01/10(木)

巻 頭 言

安房の方向性と医師会活動

安房医師会 会長 原  徹

公益社団法人・安房医師会の会員数は本年11月末の時点で270人を数えます。これは安房医療圏で働く医師総数の6割程になります。その内訳は「開業医師」であるA会員が83名、「勤務医師」であるB会員が187名、また同時に千葉県医師会、日本医師会に入会している医師数は230名となります。ところで千葉県内で活躍されている医師数は1万2千人を上回りますが、県下22の地区医師会と千葉大学医師会、千葉県下国立病院医師会、千葉県庁医師会を加えた県医師会・総会員数は4,842人であり、千葉県で働く医師総数の半分以下となります。全国レベルでも医師の総数が30万強、日本医師会員数は今年初めて17万人を超えた状況です。ところで県医師会は代議員制度を採っており、各地区医師会の県医師会・会員数に比例して地区から選ばれる代議員数は決まります。その結果、現在の千葉県医師会・代議員133名の中で安房医師会から選出されている代議員は6名となります。一方千葉県の医療圏の数は地区医師会数とは異なり9圏域に分けられており、その一つである安房医療圏のすべてを安房医師会が担う形となっています。そしてこの圏域には現在千葉県の人口の2.1%にあたる約13万2千人が生活しています。すなわち安房医師会は職域団体として当医療圏の特徴や問題点を掌握し、市町や県に意見を述べ、保健福祉行政だけでなく災害対策や教育行政等の幅広い公的事業にも協力する責務を負っている事になります。

ここで安房医師会の特徴として挙げられるのは前述の様に勤務医会員数が開業医会員数を大きく上回っている事です。そして県内の22地区医師会では唯一、勤務医会員数が過半数を占めている地区医師会組織でもあります。さらに現任の理事15名の中で6名が病院勤務の医師で構成されています。この事実は非常に特徴的なものであり、当医師会が所謂「開業医」で組織された組織では無く、地域で働く多くの医師を包括した組織であるとも言えます。また一般社団ではなく公益社団法人の資格を持つ地区医師会は県内では習志野市医師会と印旛市郡医師会と安房医師会の3組織のみであり、その意味でも公的な働きを担う組織であると自負しています。

さて平成の時代はその幕を降ろす準備が粛々と進められています。振り返れば改革に次ぐ改革の連続で競争、評価、合理化そして透明化の嵐が吹き抜けて行きました。平成の30年間で日本固有の文化の一部が失われ、国民の倫理観、行動規範までもが大きく変わってしまった様です。これで果たして国民は幸せになったと言えるのでしょうか?振り返って見れば終身雇用や年功序列は確かに非合理的な部分も多く、所謂グローバリズムには適さないものですが「組織内の連携や協調を保つには極めて有効」であったと思います。地域住民が安心して暮らすには日頃からの相互理解と合意、さらにそれらに基づく協力が必須であると思います。ところが平成の改革では外部からの評価を常に意識し、数値上の結果をだすことに価値を置き、競争を続け、それに付随して他者への批判を行い、その結果人間関係が悪化、さらには格差の増大が生じたのではないでしょうか?少子高齢化、人口減少の中で国が推進している地域包括ケアーの構想もこれでは実現困難になるのでは?と強く案じています。翻って安房医療圏の行政は未だに3市1町に分かれた体制が続いています。然し既に健康福祉分野では3市1町の連携が活発になっています。行政が自ら連携推進を掲げ安房地域が一体となり子供から高齢者まで共に手を取り合い生活できる社会が実現できないか?その一助を安房医師会が担うことができないか?今年は館山市が千葉県内で5番目に市になってから80年の節目となりますが、前述の様な目標を持ち、今年も医師会活動を行いたく思っています。医師会組織では出身地、出身大学、専門領域も様々であり、さらに勤務医師と開業医師の立場も異なり、相互理解・協調・連携を無くしては当医療圏の医療を支えることは最早不可能な状況です。この安房の地域から千葉県全体に新たな医師会組織の流れ、そして新たな安房のあり方が生まれる事を願っています。